岐阜獄中記 ~アキバから岐阜へ~

アキバを離れ、陸の孤島「岐阜」に収監(就職)されたオタクの話

なでしこを名乗る彼女

 見知らぬ彼女は不安そうな顔で私の部屋の前に立っていた。なでしこを名乗る彼女を突き放してしまった私はベットの上で掛ける言葉を誤ったことを後悔することしか出来なかった。

 

 最近の趣味、近くのホテルに宿泊すること。6000~8000円台の安いホテルに泊まって施設で満喫する。同じような趣味を持つ人はネットを見る限り私だけではないようだ。いつもと違う寝床で一晩過ごす体験が楽しい。もちろん、ホテルサービスやアメニティに朝食も楽しみの一つ。ビジネスホテル派とラブホテル派で意見分かれるところであるが、今回は駅前のビジネスホテルに宿泊した。

 

 そのホテルは大手チェーンのビジネスホテルであり、泊まるのは初めて。簡単に受付を済ませて、いざ部屋へ。カードキーでロックを解除して入室。ベットの上に荷物を置き、アメニティをじっくり観察しなが部屋を見回る。今晩の楽しみを膨らませつつ、荷ほどきをする。

 

 今回の目的はリフレッシュともう一つある。ムダ毛の除毛処理である。自宅ですると何かと後処理がめんどくさいので、ビジネスホテルのバスルームで行う。除毛クリーム備え付けのタオルを持ち込みながら、作業を始める。部屋が狭いので扉を全て開ければテレビが見えるため、待ち時間もテレビを見ながら過ごせる。1セット目が終わりシャワーで流して、体を乾かすためいったんベットへ行きFreeWi-Fiの恩恵を受ける。体が乾いたら次のセットに移る。周りの視線も後処理も気にせずできるので、ホテル先で除毛するのに限る。

 

 除毛が終わり、キレイになった生足に感動しつつ館内着に着替えて大浴場に行く。浴槽が広いだけで気分が良い。小さな幸せを噛みしめつつお風呂で疲れを癒す。入浴後はホテルサービスのラーメンとアイスを満喫しつつ、テレビ番組を横目にネットサーフィンをする。そんなときであった。

 

 コンコンっと自室の扉をノックする音がした。最初は気のせいだろうと無視をしていたが、2回目のノックが聞こえ勘違いでないことを確信する。ルームサービスは頼んでないし、心辺りもない。3回目のやや強めのノック。扉の覗き穴から来訪者を確認すると20代後半の女性が大きなカバンを持って不安そうに立っていた。花柄のワンピースを着た彼女には面識がなかった。しかし、これ以上待たせるのも申し訳ないため扉を開けた。こちらの警戒心を感じたのか、彼女の顔も不安そうなままだ。そして小さな声で彼女は告げた。

 

「―――――■■なでしこです」

 

何を云ったか一部聞き取れなかったが、自分をなでしこと語った。約1秒空白の間が生まれ、全てを理解した。そして彼女は続けて「ご依頼しましたか?」と聞かれたので、部屋を間違えていることを伝えて私は扉を閉めた。反射的に拒絶してしまったが、彼女のことが心配になり、そっと覗き穴から彼女を観察した。彼女はしばらく、廊下を彷徨い、そしてEVホールへ消えていった。私はスマホを持ち出し「なでしこ デリバリー」で検索し彼女の職業が推測していたものと一致したことを確認した。

 

 もし彼女を引き止めていたら…と過ぎたこと考えながら、自分の器の小ささに苛まれた。もし次同じことが起きたら、今度こそ部屋に招こうと心に誓い、私は眠りについた。

 

翌日の朝食バイキングは最高に美味かった。

 

PS.スクライド20周年おめでとう。