岐阜獄中記 ~アキバから岐阜へ~

アキバを離れ、陸の孤島「岐阜」に収監(就職)されたオタクの話

【ミステリー】アロマ殺虫事件ー不可解行動の謎 出題編

それは突然の出来事であった。被害者は籠城を止めて飛び出し、逃げるわけでもなく仰向けに倒れた。犯人は突飛な行動に戸惑いつつ殴殺した。不可解な行動に犯人は探偵となり現場検証を始めた。

 

 

それは休日出勤から自宅に帰ってきた直後の出来事であった。

 

 誰もいない部屋に生活音が響く。スリッパを鳴らし、買ってきたお弁当や柔軟剤を床の空いてるスペースに置いて一息つく。ベットに倒れこみTwitterのタイムラインを見ながらゴロゴロ過ごす。

何となく、ベット上から部屋を見渡す。ワンルームの小さな一室。控えめに云って若干散らかった部屋だと思いながら、変わらない風景に冷たさを感じる。目を閉じて溜まった疲労がじんわり体から染み出る。耳を澄まし家電のモーター音が静かに呼吸する。

モーター音に紛れた別の何かに気付く。――――ヒタヒタと不規則に発生する音。音の正体が気になり目を開けて辺りを見渡すが、見慣れた部屋が映るだけ。今度は嗅覚が買ってきたお弁当の香りを捉え、空腹に思い出し遅めの夕食の準備にかかる。

 

 机に買ってきたお弁当を広げ、包んでいたフィルムを剥がす。ストレスからアルコールを欲する体のために、缶ビールを飲もうと冷蔵庫に近づく。冷蔵庫の前に床に倒れている醤油ボトルに気付き、立て直そうと体を屈める。そのとき醤油ボトルのそばから動く500円玉ほどの大きさの黒い点を目が捉える。黒い点は冷蔵庫の下に消えていった。一瞬の出来事に脳が視覚情報を処理できず、幻覚だったのでは?曖昧な結論をだす。気にせず、缶ビールを冷蔵庫から取り出し扉を閉める。――――ヒタヒタ――ヒタヒタ。再び謎の小さな音が発生する。今度は近い、冷蔵庫の下から。一連の情報に脳がエマージェンシーを出す。

ゴキブリがいる。さっきの黒い点は幻覚では無かった。そしてこの足音。あのサイズの虫が足音を響かせており、強靭な脚力を有していることを主張している。結論からするに今対峙している奴はどうやらキングサイズであることは間違い無い。恐怖が全身を包む。冷蔵庫の下に奴は籠城しているがいつ私に危害を加えるかは分からない。夕食のタイミングかもしれないし、寝込み襲われるかもしれない。怯える日々は過ごせない。私の中の恐怖が狂気に変わる。奴を必ず倒すと。

 

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再現現場写真

 

 私は即行動に移す。まずは奴の退路を断った。他の場所に逃げられる前に冷蔵庫周辺を塞ぎこみ出口を絞り込んだ。冷蔵庫の背面は壁。正面から見て右側にはご時世がら入手したアクリル板でシャットアウトし奴の出口は正面と左側のみとなった。私が準備を進めている間もヒタヒタと足音を鳴らし外を窺う様子が見られた。この準備段階で奴が外に出てこなかったのは不幸中の幸いであった。

 現場は厳戒態勢をとり、狙撃用にスプレータイプの洗濯洗剤と近接戦用にペットボトルを用意し待ち構えていた。しかし、膠着状態は続き何もないまま15分が過ぎた。

足音は聞こえるが冷蔵庫の下から出てくることは無かった。このまま長期戦になれば、不利なのは私の方であるのは明白であった。そのため、奴を引き釣り出すことに方針を変えた。

 用意したのは趣味のお香セット。煙でいぶりだすことにした。殺虫効果まではないもののお香には虫除けの効果があるとネット記事で読んだのを思い出したのだ。物理的に長物を隙間に入れて追い立てる作戦も考えたが、もし奴が突貫してきたときに近接し過ぎて対応できなくなるため、却下した。

 早速、お香を焚き始める。近接武器をペットボトルからうちわに変えてお香を扇ぎ、冷蔵庫正面から下に煙を入れる。左側のスペースを残したのは奴を死地に追い込む罠である。左側はスペースこそ広いが行き止まりの角となっており、そこで仕留める作戦。

最初の数分間は変化が無かったが、10分を超えたあたりから奴の足音が慌ただしくなる。―――ヒタヒタ―――ヒタヒタヒタヒタと動く量も大きくなっているのが聞こえる。2本目のお香を焚き始めたところであった。

 奴はこちらの予想通り、左側の隙間から飛び出してきた。あまりの、突然の出来事に身がすくみ攻撃できなかった。しかし、奴は意外な行動をとった。隙間から出てきてすぐに自らひっくり返り、多足を複雑に動かしもがいていた。そのグロテスクな様は恐怖を与え、私は硬直してその光景を見ることしか出来なかった。30秒ほどの時間が過ぎ我に返りひっくり返り足を動かし続ける奴を殴殺した。奴が動かなくなったことを確認すると緊張感が解け、奴の変わり果てた姿をまじまじと眺める。キングサイズの奴は胴を潰され体液を散らし仰向けのまま倒れていた。罪悪感から、テッシュを取り奴の上に被せた。

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現場見取り図

 時間が経ち冷静さを取り戻した私は一つの疑問を持った。どうして奴は冷蔵庫から出てきた直後ひっくり返ったのか?奴あらため被害者は脱出し逃げ切るチャンスがあったにも関わらず、そのまま走り切らずに立ち止まりひっくり返った。ひっくり返って足を必死に動かしていた。何故?何のために?その不可解な行動の理由がわからなかった。

もちろん、死因は殴殺であり犯人は私。衝動的に殺してしまった。全面的に認める。

しかし、どうしてひっくり返ったのか私には謎だった。もしかして被害者は降伏を認め腹を出し無害を証明したかったのだろうか?本能的な虫にそこまでの知能があるとは思えないが、もしそうであるなら、降伏した被害者に対し止めを刺したことになる。

そうだったんだろうか?

 

 この不可解な行動の真相を探るべく現場検証を始めた。

 被害者は確かに出てきた当初は走って出てきた。最初からひっくり返って出来てきた訳ではない。そして7cmほど走ったところで急にひっくり返った。このときは進行方向を軸に横回転、飛行機で云うところのローリングである。

自ら転んだとは考えにくい。6足歩行である被害者が転んでひっくり返ったとは考えにくい。いくら焦っていたからとしても、足がつまずいたり、絡まったからといって体がひっくり返り転ぶのは体格的にあり得ない。もしそうなら、ピッチング方向に回転しそうなものだ。やはり、自らの意志でひっくり返ったと考えるのが順当である。では何故?やはり降伏のためか?

 そもそもどうして冷蔵庫の下から出てきたのか?冷蔵庫の下で籠城し続けられたなら、被害者の方に地の利があった。冷蔵庫の下にいる間は犯人は攻撃することは出来ない。だから私はお香焚き被害者をいぶりだした。いぶりだすことまでは成功した。しかし、被害者がひっくり返った原因にはならない。お香には虫除けの効果しかない。殺虫成分は含まれていない。蚊取り線香の殺虫成分はピレスロイド系であり、犯人が使用したお香はカーネーションの香りタイプでありもちろんピレスロイド系の成分は含まれていない。

 視点を変える。お香はどうやって虫除けをしているのか?主な仕組みはお香のフレーバ―として含まれる花草(ハーブ類)の成分に虫除けの効果が含まれていることがあり、結果として虫除けになってる。フレーバーによっては虫除け効果は無い。今回使用した、ラベンダーについてもハーブの一種であり虫除けとしての効果を持っている。繰り返しになるが、虫除けの成分であり殺虫成分では無い。そのため、ラベンダーのお香でいぶりだす作戦は理にかなっていたがひっくり返る原因にはならない。

 

 いぶりだした真実まではつかめた。しかし、謎はまだ不明なまま。

どうして被害者はひっくり返ったのか?あなたにはわかっただろうか?

これは事故か事件か?犯人に余罪があるかどうか?

 

この答えがわかったとき、「あこれミステリーなりそう」で書いたのがこの記事。

長くなり過ぎたので、わざわざ解答編分けたので気になったら読んでね!

 

PS.RE-MAIN面白し、記憶戻るってとこがキレてるぜ。

 

 

↓解答編

px4.hatenablog.com