岐阜獄中記 ~アキバから岐阜へ~

アキバを離れ、陸の孤島「岐阜」に収監(就職)されたオタクの話

田んぼの真ん中の穴

 大きく身を付けた稲穂は頭をたれ、風になびく。一面に広がる黄金色の田んぼ真ん中に穴が一つ。誰かが入った様子もない。周りの稲穂は無事なのにその一か所だけ稲穂が無残に潰されている。それは兄から教わった妖怪のお話。

 

 季節は秋になり、近くの田んぼは収穫真っ最中です。一面に広がる田んぼ畑は見ていて綺麗ですね。きっとおいしいお米だろうなと考えながら、昔話を思い出します。それはまだ、投獄される前の子供の頃の思い出。

 

 田んぼの真ん中にポツンと一か所、稲が潰れているとこがあるのを見たことはありませんか?誰かが踏み入った形跡もないのに、上から押し潰されたように倒れた稲穂。

 祖母の家で見かけた風景でした。どこの田んぼにも必ず一か所はある謎の空間。ミステリーサークルと云うには小さ過ぎる。当時小学生の私は、高校生の兄に聞いてみました。兄は教えてくれました。

 

「あれは妖怪、ダイブボンバーババアのしわざだよ」と

 

 男は稲を育てる農民百姓でした。お米を育てて、収穫したお米のうち決められた量を地主に収めます。残りのお米は来年育てる分と自分たちで食べる分です。夏のある日、自分の田んぼに行くと、真ん中のあたりが何かに踏みつぶされて稲穂が根本から倒れています。男は獣のしわざと思い、獣除けのために柵を立てました。

 翌日、また新しい場所が潰されており、男は疑問に思いました。獣や人が潰したのであるならば、真ん中ではなく道路の手前から道のように潰していくはず。風や雨であれば部分的ではなく、全体が潰されるはず。カラスや雀で稲穂は倒れても、根元から倒せる重量はない。

 男は原因を突き止めようと、夜中に自ら田んぼの中に入り身を潜めて待ち伏せてみました。深夜になり鳥の鳴き声も消え、月明かりだけが田んぼを照らします。

 すると、見知らぬ老婆が男の田んぼの周りをウロウロしていることに気が付きました。老婆は男の田んぼ見て、何かを探しているように見えました。男はいたずらをしようとしている犯人だと思い、声をかけようと立ち上がりました。そのとき、老婆は跳躍し、男めがけて大の字でボディプレスをしてきました。男は圧迫死し、稲穂と一緒に潰されてしまいました。

 

 これが田んぼの真ん中が潰れている真相だよと、兄は教えてくれました。幼い私は大ウケし、お気に入りのお伽噺になりました。もちろん信じていません。

 

 大人になり、投獄された岐阜でも田んぼを見るようになりました。田んぼの真ん中の穴を見るたびに「結局あれはどうやってできているのだろう?」と考えます。大人になっても答えを持ち合わせない私は、ダイブボンバーババアのせいなのだろうと懐かしく思うのでした。

 

PS.May'nさんの「キミシニタモウコトナカレ 」は名曲だなぁと思いながら